ある朝のことです。
その日。
リンゴが、ありませんでした。
えぇ。
完全に、こちらのミスです。
ヒヨちゃんは来る。
それはもう、分かっている。
なのに。
用意していない。
これは、まずい。
どうするか。
少し考えて。
私は、ひとつの案を思いつきました。
トマト。
これに。
ハチミツをかける。
甘くすれば、いけるだろうと。
ほら。
ほぼフルーツですし。
色も、なんとなく似ているし。
これは。
いける。
そう思ったんです。
そして。
そっと、外に出す。
すると。
来ました。
ヒヨちゃん。
いつものように。
迷いなく。
すっと降りてきて。
トマトを見る。
少しだけ、首をかしげる。
でも。
食べる。
パクッ。
……一口。
その瞬間でした。
ピタッと、止まる。
そして。
ゆっくりと。
顔を上げる。
じーっ……。
まっすぐ、こちらを見る。
えぇ。
完全に、目が合いました。
その目が。
さっきより、少しだけ強い。
明らかに。
怒っている。
そして。
もう一度、トマトを見る。
もう一度、こちらを見る。
……食べる。
えぇ。
食べるんです。
ちゃんと。
でも。
さっきとは違う。
噛みしめながら。
じーっ……。
こちらを見てくる。
完全に。
訴えている。
その目が言っていました。
「これは違う」
と。
「甘くしても、違うものは違う」
と。
そして。
……残す。
見事なまでに。
きれいに。
そこだけ残す。
えぇ。
完全に、見抜かれていました。
しかも。
優しさすら感じるレベルで。
「全部は否定しないけど、これはいらない」
みたいな。
あの絶妙な距離感。
甘さじゃないんですよね。
問題は。
ハチミツをかけても。
誤魔化せないものが、ある。
それを。
あの一口で、全部判断している。
しかも。
迷いがない。
違ったら。
ちゃんと伝えて、ちゃんとやめる。
これ、すごいなと。
思ったんです。
私はというと。
どうでしょう。
なんとなく良さそうだから。
甘くしてあるし。
健康にもいいし。
そんな理由で。
本当は違うと思いながらも。
我慢したり。
続けてしまったり。
……ありますよね。
でも。
ヒヨちゃんは違う。
一口で判断して。
違ったら、伝える。
そして、残す。
それだけ。
シンプルで。
正確で。
そして、ちょっと厳しい。
あの目は。
きっとこう言っていました。
「それ、本当に合ってる?」
と。
私は、少しだけ。
背筋が伸びました。
そして。
次の日。
ちゃんとリンゴを用意しました。
えぇ。
完全に、学習しました。
人間の方が。
そんな朝でした。
再生する身体。
再起する人生。
ヒヨちゃんは今日も、
騙されない。



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